炭素循環農法は林幸美(はやし ゆきみ)さんが2001年に炭素循環農法のウェブサイトを開設され
それ以来、じわじわと広まっています。
何年も前から炭素循環農法のことは見聞きしていましたが
無農薬・無施肥・無施水・無除草という夢のような農法に
「本当か?」と疑問に思い敬遠していました。
オーガニックや自然農法が広まる中で
本当に安心・安全、それでいて自然への負荷も少なく、
全人類が豊かな食を享受できる農法はあるのか探している中で
炭素循環農法にたどり着きました。
炭素循環農法が完璧な農法だとは思っていませんが、
炭素循環農法あるいは無農薬・無施肥の農法(自然農ではないです)が
2〜3年後(2019〜20年)には、もっと認知されるだろうと予感しています。
では、炭素循環農法とはどんな農法でしょう?
目次
How To 炭素循環農法
炭素循環農法のメカニズム
炭素資材と微生物の関わり
無農薬・無施肥、除草も水やりもせず食味も収量もUP
自然農法と何が違うの?
炭素循環農法って簡単?
炭素循環農法はいつ誰がはじめたの?
どこで勉強できるの?
まとめ
How To 炭素循環農法
炭素循環農法の重要なポイントは
『炭素資材を畑に漉き込む』
ことです。
炭素資材とは炭素率の高い有機物のことで
木材チップ、竹チップ、落ち葉や籾殻、枯れかけの草とかです。
オススメはキノコを栽培した後の廃菌床です。
炭素循環農法の提唱者 林さんはキノコ農家さんなので
この廃菌床を農家さんに提供しているようです。
菌が広がっていくのを目で見られるので、初心者にはオススメの炭素資材です。
この炭素資材を圃場に蒔いて、表面15ー20cmに漉き込めばOK!
要点だけまとめるとなんとも簡単ですが、
もう一つ重要なポイントは
『糸状菌(しじょうきん)を増やすこと』
です。
キノコも糸状菌の一種なので廃菌床は観察するのにも
糸状菌を増やすのにもオススメです。
窒素飢餓は起こるのか?
「炭素率の高い資材を入れたら窒素飢餓になる」
と有機栽培農家も慣行栽培農家も指摘するところだと思います。
ですが、「【仮説】無肥料・無施肥で育つメカニズム~アミノ酸サイクルとNPKサイクル」でも書いたように、NPKで育つメカニズムと、糸状菌が供給するアミノ酸で育つメカニズムは異なると思います。
炭素循環農法の場合、窒素飢餓になるのではなく、むしろ窒素飢餓にして糸状菌が活発に増殖できる環境を作っていると考えた方がいいと思います。
炭素循環農法のメカニズム
炭素循環農法は無農薬・無施肥の農法です。
そこで疑問に思うのが
「肥料なしで野菜が育つのか?」
とだと思います。
まず、肥料なしで野菜は育ちません。
化学肥料を使った敢行農法や有機栽培は
畑の外から栄養素(チッソ・リン・カリ等)を持ってきて撒きます。
炭素循環農法は
”畑の中で微生物に栄養素を作ってもらおう”という農法です。
そこで大事になるのが炭素資材と糸状菌です。
炭素循環のサイクルをざっくり書くとこうなります
『炭素資材→糸状菌が分解→糸状菌の分解物を餌に窒素固定菌等が分解→植物の栄養に』
炭素資材は炭素率(C/N比)が高い有機物ですがこれを分解してくれるのが糸状菌です。
この糸状菌が炭素資材を分解して排出したものを餌にする微生物がいます。
その微生物には窒素を排出する窒素固定菌や
リンやカリ、あるいはマグネシウムなどの
微量元素を排出する微生物がいます。
その微生物が排出した栄養素を植物が吸収します。
『炭素資材→糸状菌→窒素固定菌→植物の栄養』
このサイクルができることで無肥料栽培が可能になります。
炭素資材と微生物の関わり
炭素循環農法での重要なキーワードは
『炭素資材と糸状菌(しじょうきん)』
です。
炭素資材は炭素率(C/N比)が高い有機物です。
C/N比は窒素に対する炭素比です。
鶏糞や牛糞も有機物ですが、炭素率は低く鶏糞は5、牛糞は15程度です。
炭素循環農法で使われる炭素資材は炭素率30%以上を使います。
オガクズの廃菌床は炭素率30〜50
籾殻は80
竹は280となっています。
※現代農業 2016年10月号より
この炭素資材を分解するのが糸状菌です。
この糸状菌は炭素資材を糸状の菌糸で包み込み
ゆっくりと分解していきます。
窒素率の低い有機物を分解する微生物は
窒素を栄養源に必要とするため窒素飢餓が起きることがあります。
しかし炭素資材を分解する糸状菌は窒素を必要としないため
窒素飢餓が起こりません。
例えば
窒素率が低い未熟な牛糞を畑に漉き込むと、
牛糞を分解しようと微生物が働き出します。
その時に窒素を食べてしまい窒素飢餓が起こります。
しかし糸状菌は窒素を必要としないため
窒素飢餓を引き起こさずに炭素資材を分解していきます。
その結果
・土壌の団粒化
・排水性をよくする
・窒素供給菌の餌を輩出する
などのメリットを提供してくれます。
無農薬・無施肥、除草も水やりもせず食味も収量もUP
収量UP
無施肥については炭素循環農法のメカニズムで説明しました。
『炭素資材→糸状菌→窒素固定菌→植物の栄養』
のサイクルができると炭素資材がある限り栄養は供給され続けます。
その結果、一つ一つの株が大きく育ち収量があがります。
食味UP
化学肥料にせよ、有機肥料にせよ肥料を入れれば大きく育ちます。
しかし肥料を入れすぎると植物もメタボになります。
濃い緑の葉は硝酸態窒素を多く含み、エグミがつよくなります。
硝酸態窒素については【硝酸態窒素の身体への影響】にまとめてあります。
また肥料を土壌に撒くことで土壌中の水が腐敗し(肥毒)、
腐った水を植物が吸い上げ食味が落ちます。
炭素循環農法では肥料のあげすぎはありません。
植物が必要な量を必要なだけ吸い上げます。
また糸状菌や微生物が土壌の団粒化を促進し排水性を良くしてくれるため
土壌の腐敗もありません。
そのため健康で美味しい野菜が育ちます。
無農薬でOK
虫がつくのは”腐敗が原因”です。
肥毒による硬盤層(腐敗することで土壌が粘土化していく)、
あるいは耕盤層(耕運することでできる硬い層)があることで排水性が悪くなります。
この硬盤層(耕盤層)があることで水が溜まり、水が腐ってしまいます。
この腐った水を野菜が吸い上げることで
野菜自体から腐敗臭を放ち、結果、虫が集まってきます。
排水性がよく、腐敗臭のない野菜を育てれば
虫がやってくることはありません。
草取り不要
無除草についてはまだ理屈がわからないので今後も考えていきますが、
いくつか思い浮かぶことがあります。
表土が乾燥気味になる
一つは排水性が良くなることで表土が乾く=乾燥気味になります。
タネがあっても水がなければ発芽できません。
温室ハウス内で潅水を控えると草も生えにくいです。
エンドファイトのおかげ?
もう一つヒントになりそうなのはエンドファイト(内生菌)です。
植物と共生する菌のことです。
植物の細根と思っているものはこのエンドファイトだったりします。
炭素循環農法は単一栽培が向いているそうです。
トウモロコシだけ栽培するとか人参だけとか。
単一栽培を続けると植物に合ったエンドファイトが増える。
例えばトウモロコシと相性のいいエンドファイトが増えると
他の植物が育ちにくくなるのではないか。
そんな仮説を立てていますが、観察中です。
自然農法と何が違うの?
自然農法とはで
自然農法の4原則は『耕さず、草をとらず、肥料を与えず、農薬を使用せず』と書きました。
自然農法も炭素循環農法も
自然から学ぼうという気持ちがあります。
違うとしたら
自然農法は”自然に委ねること”で、
炭素循環農法は”自然の理を模倣すること”
ではないかと思います。
それが端的に現れるのが大規模農業化できるかです。
自然農法は大規模農業には向いていません。
手間がかかるわりに収量が取れないからです。
炭素循環農法は機械を使って大規模農業化することができます。
自然農法の大変さで書きましたが自然農法は手間がかかります。
自然はもっとシンプルで簡単なはず。
そう考えると大規模農業化できる炭素循環農法は
結構ナチュラルなのかも。
炭素循環農法って簡単?
「炭素資材を入れて耕運するだけ!」と書くとすごく簡単そうに思いますよね。
では実際にどうかというと、
元々の圃場の状態によって育ったり育たなかったりがあるようです。
私(小川)がお借りしている温室は休耕地だったのですが
土壌の状態が良くすぐに無肥料で育ちました。
残っていた肥料が効いているだけかもしれないので様子を見る必要がありますが、
籾殻を入れて土壌が良くなっているように思います。
また見学に行かせていただいた炭素循環農法の実践農家さんは
有機栽培から炭素循環農法に切り替えたそうですが、初年度から収量が安定しているそうです。
一般的には炭素循環農法に切り替えると2ー3年は収量が激減あるいは安定しないと言われていますので
初年度から変わらずに収量があったときき驚きました。
さて一方、私がお借りした休耕田。
畑化しているのですが水はけが悪いため土壌改良から始めています。
籾殻を入れたり、廃菌床を入れていますが、水はけが悪いため腐敗してしまいます。
また炭素資材の投入量やもともと圃場にいる微生物の多少によっても違いがあるようです。
炭素資材を入れて糸状菌が分解できるかが重要なので
糸状菌の少ないところに大量の炭素資材をいれても分解が進みません。
軽く堆肥化して分解しやすくしてあげるなど工夫が必要のようです。
このように炭素循環農法は、やることは単純なのですが
やってみてからの気づきや学びがたくさんあります。
だからこそ興味をかき立ててくれる農法です。
炭素循環農法はいつ誰がはじめたの?
2001年に林幸美(はやし ゆきみ)さんが開設されたウェブサイトが炭素循環農法のはじまりです。
炭素循環農法 百姓モドキの有機農法講座
http://tan.tobiiro.jp/etc/home.html
林幸美さんはブラジル在住の養鶏&キノコ栽培農家さん。
野菜農家ではないのですが、ウェブサイト開設後の反響が大きく
国内外問わずあちこちで炭素循環農法を教えています。
私が廃菌床をいただいているキノコ農家さんは、炭素循環農法をご存知ではないのですが
廃菌床をきのこ農場の隅っこに大量に撒いて家庭菜園を楽しんでいます。
無農薬無肥料のとても美味しい小カブを食べさせてくれました。
キノコ農家さんは廃菌床が土壌に良いことを経験的に知っているようです。
林さんは時々日本に来て講義をされているようですが
日本で炭素循環農法を実践しながら広めているのが城 雄二(しろ ゆうじ)さんです。
ウェブサイト「たんじゅん農を楽しむ広場」の世話人をされています。
たんじゅん農を楽しむ広場
http://tanjun0.net
「生命とはなにか?」を知りたくて物理学を学び、
農に答えがあるのではないかとたんじゅん農法を実践しながら研究していらっしゃいます。
どこで勉強できるの?
炭素循環農法に興味のある方はまずはこちらのウェブサイトをお読みください。
オススメその1 炭素循環農法 百姓モドキの有機農法講座
炭素循環農法 百姓モドキの有機農法講座
http://tan.tobiiro.jp/etc/home.html
印刷したら膨大な量になりましたが面白くてあっという間に読んでしまいました。
オススメその2 たんじゅん農を楽しむ広場
たんじゅん農を楽しむ広場では各地で交流会を行なっているようです。
お近くで交流会が開催されているかチェックしてみてください。
たんじゅん農を楽しむ広場
http://tanjun0.net
たんじゅん農法の広場
http://tanjunnou.blog65.fc2.com
オススメその3 Wonder Vege
私たちWonder Vegeもオススメです。
無農薬・無施肥・大規模農業できる農法を研究しているため、
炭素循環農法だけではなく、スーパー微生物農法など新しい農法も積極的に取り入れています。
Wonder Vege
https://wondervege.com
まとめ
炭素循環農法は無農薬・無施肥・大規模農業化できる栽培方法です。
農業という視点から見たとき、
また全ての人の食を安心安全ヘルシーなものにするという視点で見たとき、
とても可能性のある農法です。
炭素循環農法よりももっと自然の理(ことわり)と調和する農法があるかもしれません。
でもその導き手として炭素循環農法は良いガイドになってくれると思います。
無農薬・無施肥で大規模農業化したい方、
もっと安心安全ヘルシーな野菜を育てたい方、
自然をもっと知りたい方にオススメの農法です。
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